2007年11月11日

盲目のヴァイオリニスト

辺りは静寂に包まれていた。
彼は、光のない世界にたったひとりで立っていた。
誰の手も 彼に触れない。
誰の声も 彼には届かない。

彼は、手になじんだ楽器を肩口にあてがい、弓をかざした。
奏で出される 彼の世界。

風に揺らぐ木の葉

軽やかな子犬の足音

はしゃいで遊ぶ子どもたち

通りすぎる少女たちの笑い声

肌に触れる陽光のぬくもり

頬をなでる春風

しっとりとした雨

野の花のやわらかな香り…


鮮やかに彩られた 色のない彼の世界。

そのなんと広くやさしいことか!




最後の一音が 細く 清く 響いた。


あたりに残響だけを残し、ヴァイオリンから 弾ききった弓から 彼の世界の余韻が解き放たれてゆく。





その余韻を 彼が味わいきったとき

満場の拍手が彼を覆い隠した。


ああ、彼はひとりではなかった。


次々に椅子を立つ音
ブラヴォーの声
鳴り止まぬ拍手

ああ、彼はひとりではなかった。

鳴り止まぬ拍手

鳴り止まぬ拍手…
posted by 神楽月美宇 at 11:09| Comment(4) | TrackBack(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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